戦争終結から六〇年以上経て、自他ともに認めるヨーロッパの中心となってもなお、首都のど真ん中に「お前たちは負けた」と書き込まれた巨大施設を置き続けなければならない、それがドイツという国家が敗戦の結果抱え込んだ宿命なのである。
私の抱いた感情は、ナショナリズムに基づく義憤ではない。何も知らずにションベン横丁にフラフラやって来るアメリカ人は怒鳴りつけられるに値するとも思わない。あるいは、この街がアメリカへの復讐、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の精神を維持するために残されるべきだと言いたいわけでもない。命ぜられた通りに「鬼畜米英!」と叫んだ同じ口が、命ぜられた通りに「民主主義万歳!」と唱え、「アメリカは素晴らしい!」と唱和するというこの光景の相変わらずの無惨な有り様、それが同じ空間を共有する人間として私には端的に我慢ならないのである。
--- 白井聡 「永続敗戦論」から
0 件のコメント:
コメントを投稿
コメントは、日本語でお願いします。