2020年1月13日月曜日

窒息しますよ

いま安倍政権を5割近いひとが支持しています。5割近いひとが、この時代の空気を自分にとって一番自然なものだと思っているということです。この酸欠状態のなかで自然に呼吸できていると思っている。彼らは抑圧とか、息苦しさとか、生きづらさとかいうものを、もう感じていない。酸欠状態そのものが自然になっている。このひとたちに、「息苦しくないですか?」「どこかに穴をあけて新鮮な空気を入れないと窒息しますよ」ということを伝えないと危険だと思います。

 中高一貫教育がそうです。あの制度が子どもたちの成熟をどれほど妨げているか、みんな無自覚すぎます。
 12歳から18歳まで、同じ仲間と過ごすというのはある種の「地獄」ですよ。変化し、複雑化し成熟してゆくことを制度的に阻害されているんですから。

ーーー 内田樹 「週刊金曜日1263号 2020年の日本と世界」から

2020年1月12日日曜日

見ろよ

電車や駅に貼られている暴力行為防止のポスターありますよね。女の人が手で目を覆っている姿が描かれて、「暴力・・・もう見たくない」と書いてある。でも、私は「見ろよ」って思うんです。被害者がいて、加害者がいて、それを第三者であるあなたが見なかったら、誰がその暴力を止められるのか。でも、多くの人は、見たくないんですよね。だからいつまでたっても解決しない。

植民地支配について日本の学生に授業したりすると、「日本がひどいことをした」と謝ってくる子がいます。そういうとき私は「なんであなたが謝るの?」「あなたが強姦や泥棒や人殺しをしたわけじゃないでしょ?」「あなたが謝ると本当の犯人が逃げちゃうよ」と言うんです。逆に、「日本はいいこともしてやった」と言う奴もいます。そういう奴には、「あなたがやったのか?」「人の手柄を取るな」って。

ーーー 蓮池 徹 辛淑玉 「拉致と日本人」から

老いの生き方

老年は石だ。ぞうり虫だ。いなくてもいいものだ。舞台から下りようとして、とまどって、まごまごしているだけの人間だ。だが、それだけのことで、その他の点では、諸君とおんなじなのだ。なに一つ成長したわけでもないのに、うかうかとつれてこられて、いわゆる年よりがいのない連中が大方なのだ。彼らがうるさいのは、不平のもってゆきどころがないからだ。そして、本心は、若くなりたいのだ。(金子光晴)

われわれは気むずかしさや目の前にある物事に対する険悪を知恵と呼ぶ。けれども、実を言うと、われわれは不徳を捨て去ったのではなくて、別な不徳と、しかも私の考えでは、もっと悪い不徳と取り替えている。愚かな倒れかかった自尊心や、飽き飽きするおしゃべりや、とげとげしい人づきの悪い気分や、迷信や、使いもしないお金に対する滑稽なほどの心配などのほかに、羨望や、不平や、邪悪までがいっそうひどさを増しているのである。老年はわれわれの顔よりも心に多く皺を刻む。だから、年老いても、酸っぱい、かび臭い匂いのしない心というものはめったにないし、あるとしてもごくまれである。人間は成長に向かっても、減退に向かっても全身で進む。(モンテーニュ)

ーーー 鶴見俊輔 『老いの生き方』 から