2021年2月27日土曜日

決して短くない時間

 それにしても、これらの巨木は伐られてどこにいったのだろう。巨大な建築物になったのだろうか。無垢材の家具や建具として各地の家庭で大事に使われているのだろうか。そんなことはない。海外では重厚な家具になったが、国内ではベニヤや薄い突き板になり消えてしまった。雄大な立ち姿を見せていた巨木たちはわずかにその痕跡を留めるだけだ。先祖から引き継ぎ次世代に残すべき大事な遺産を我々は失ったのである。


伐採を専門にする業者の話を聞いたことがある。「トチノキの巨木はなんぼでもある。伐ってもすぐに大きくなるのでなくなる心配はない」。数十年前のことではない。数年前のことである。この業界には依然根深い無知がある。森の中で巨木と言われるまでに育つには人の寿命の何倍もの時間を要すること、そしてそれはきわめて稀なことだということを知らねばならない。


森のてっぺんに顔を出せたのは、そして花を咲かせるまでに大きくなれたのはどれくらいなのだろう。
親木から飛び立った種子の、何十万分の一、何百万分の一だ。
さらに人間の世代を幾つも幾つも超えて生き延び、老熟していく。
奥地に立つ巨木は奇跡なのである。
想像を超える時間を生き、樹々のいのちは繋がっていく。

--- 清和研二・有賀恵一 『樹と暮らす』から


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