2021年5月23日日曜日

羨まし

「人見知り」という言葉は、曖昧な部分が多い。実際には世の中のほとんどの人が自身の身の中に人見知りを内包しているのではないかと思う。誰彼構わず関係性を瞬時に築ける人の方が稀有(けう)だろう。ただ多くの人が、人見知りを貫くだけの勇気と気力が無いのだ。自分から見れば人見知りは生き難いかもしれないが羨ましくも感じられる。

ーーー 又吉直樹 『東京百景』


舞台に上がる芸人と観客の間には、言葉では説明できない境界がある。舞台に上がる当事者は眼に見えない法衣を身に纏(まと)い、その力によって日常と乖離した舞台という場に立てるのだ。その霊力によって衆目に負けず、人前でも声を出せる。そう思っていた。 しかし古井(由吉)さんは眼に見えぬ法衣など着けず裸で舞台に上がられていた。舞台と客との関係性に日常を放り込めるというのは特殊な能力だと思う。日常でも文章上でも境界を軽々と越えられる方なんだと改めて思い知らされた。

ーーー 又吉直樹 『東京百景』


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